歴史と文化の香りが息づく古都でありながら、海辺の街としての魅力も兼ね備えた鎌倉は「いつか暮らしてみたい」と憧れを抱かせる不思議な吸引力をもっています。とはいえ、毎年約2,000万人が訪れる観光地であることや街のロケーションがあいまって、鎌倉暮らしには不便な点もあります。
今回は、どんなことが不便なのか、その不便さを凌駕する鎌倉ならではの価値とはどこにあるのかをご紹介します。あわせて、「鎌倉暮らしはどのような人におすすめなのか」についてもご紹介しますので、参考にしてみてください。

鎌倉ってどんな街なの?

鎌倉は、海と山に囲まれ、神社仏閣や歴史を感じるスポットなどが数多く存在する「日常のなかにたくさんの非日常を感じられる街」です。由比ガ浜・材木座・稲村ガ崎といった海辺、緑深い山にたたずむ古寺、JR鎌倉駅近辺の街とでそれぞれに異なった雰囲気が楽しめる、多面性のある街でもあります。東京駅からJR横須賀線で55分というアクセスの良さもあって、1年を通してたくさんの観光客が訪れる観光地です。

鎌倉ってどこを指すの?

鎌倉市には「鎌倉地域」「腰越地域」「深沢地域」「玉縄地域」「大船地域」という5つの地域があります。ここでは、鎌倉市のなかでもJR鎌倉駅周辺と江ノ島電鉄(以下、江ノ電)沿線の地域を「鎌倉」としてお話していきます。

都内へのアクセスと家賃相場

鎌倉にはJR横須賀線・JR湘南新宿ライン・江ノ電の3路線が乗り入れています。JR横須賀線で東京まで55分、JR湘南新宿ラインで新宿まで62分です。どちらも乗り継ぎなしで行くことができます。江ノ電は鎌倉と藤沢をつないでいますので、鎌倉から藤沢に出てJRに乗り換えて東京に行くという方法もなくはありません。ただし、江ノ電で行くと鎌倉から藤沢までは33分かかりますので、観光でのんびり行きたいという場合以外は他のアクセス方法をおすすめします。

SUUMOの「JR横須賀線の家賃相場情報」によると、JR鎌倉駅エリアのマンションの家賃相場はワンルームタイプで6万円台後半です。同じく横須賀線沿いのJR武蔵小杉駅エリアの相場と数千円しか変わりません。鎌倉人気を反映して家賃相場は比較的高めだといえるでしょう。

鎌倉ってこんなところ

鎌倉の魅力は、まず自然の美しさにあります。三方を山に囲まれており一方は海に面しているため、海と山どちらの風景も楽しむことができる街です。鶴岡八幡宮をはじめとした幕府が置かれていた鎌倉時代に思いを馳せることができる歴史的スポットや、神社仏閣が数多くあります。神社仏閣のなかには花の名所と謳われるところも多々あり、特に紫陽花は「紫陽花といえば鎌倉」といわれるほど有名です。
鎌倉は、かつては鎌倉文士という言葉ができるほど数多の文学者が居住していた文化の香り漂う街でもあります。

鎌倉に住む前に知りたいミニ知識

鎌倉はさまざまな魅力をもつ街です。ただし、そこに暮らすとなると、多くの観光客や街のロケーションから来るさまざまな不便点も浮かんできます。転居する前に知っておくべき鎌倉ミニ知識をご紹介します。

年間約2,000万人の観光客が訪れる

鎌倉で暮らすにあたって一番の問題となるのが、年間約2,000万人もの観光客です。「第3期鎌倉市観光基本計画」によると、平成26年の鎌倉市の面積当たりの入込観光客数は55万5,426人でした。鎌倉市の倍以上の観光客数を誇る京都市でも面積当たりの入込観光客数は6万7,201人であることを考えると、鎌倉は狭いエリアに大勢の観光客が来ているということになります。
観光スポットと生活圏内が重なってないのであればそれほど問題はないのですが、観光客による喧噪や混雑は住民にとって悩みの種となっています。

混雑する江ノ電

特に土日祝日や観光シーズンの江ノ電の混雑ぶりは顕著です。鎌倉市は、ゴールデンウィークの特定日に「江ノ電沿線住民等証明書」を提示すると列に並ばずに駅構内に入場できるという社会実験を3年連続で行っています。市は住民の不便を解決すべく試行錯誤していますが、いまだ問題の解決には至っていません。

交通手段において工夫が必要

年末年始は初詣に来る観光客による混乱を避けるため大規模な交通規制が行われます。規制区域内の住民はあらかじめ警察署で「通行手形」を発行してもらわなければ規制区域内を通行することはできません。つまり、通行手形の発行を忘れてしまうと車で出かけることができないわけです。
こうした混雑に巻き込まれないため、鎌倉の住民には普段から江ノ電や車は利用せずに徒歩や自転車を利用しているという人も少なくありません。

物価は高め

観光地値段ということで家賃も含めて物価は高めです。そのため、買物は物価が安めの大船までわざわざ出るという人もいました。
とはいえ、鎌倉には生しらすや鎌倉野菜などおいしいものがたくさんあります。漁港の近くにしらす直売所があったり、鎌倉駅の近くに地元の農家が出店している鎌倉市農協連即売所(通称レンバイ)があったりと、地元産の食材に出会うチャンスは多いので鎌倉で暮らすのであればぜひチャレンジしてみてください。

鎌倉の夜は早め

鎌倉は都心からのアクセスの良さもあって日帰り観光客が多い街です。夜遅くまでの観光を想定していないためか、小町通りなどでは夕方6時にもなると店じまいをするお店が続出します。ひとつ路地を入れば夜までやっているお店ももちろんありますが、鎌倉の夜は総じて早めです。

湿気と塩害があるって本当?

鎌倉には谷戸と呼ばれるひだのように幾筋も切り込んだ谷がたくさんあります。入り組んだ谷戸のなかに空気が閉じ込められるため、谷戸の湿気はかなり強力です。換気と除湿を適切に行わないとカビなどの被害にあってしまいます。
潮風による塩害は居住地区によりますが、海沿いでは車に穴が開くなどの塩害が起きています。特に台風の後の塩害は強烈で、庭の木が1日で枯れたなどという話もあるほどです。鎌倉の秋の風物詩である紅葉も、塩害によってしばしば影響を受けています。

鎌倉で暮らす価値って?

鎌倉には不便な点もたくさんありますが、それでも「鎌倉で暮らしたい」「不便さもあるけれど、鎌倉から出ていきたいという気持ちにはならない」と多くの人が口をそろえます。鎌倉で暮らすことにはどのような価値があるのでしょうか。

ゆったりとしたライフスタイル

豊かな自然のなかで季節を肌で感じながら過ごす鎌倉での暮らしは、「スローライフ」「ロハス」といった言葉がしっくりきます。昼間は観光客で賑わう鎌倉ですが、夜は心地の良い静寂が街を包みます。自分らしさを楽しむ人たちが多い鎌倉のライフスタイルは、忙しく時間が過ぎていく都会では手に入りにくいものかもしれません。

海のそばでの暮らし

思い切り駆け回れる砂浜や雄大な水平線など、特にサーフィンをはじめとしたマリンスポーツをする人たちや子育て世代のファミリーには、海のそばでの暮らしは他のものに代えがたい価値があります。鎌倉には海に加えて山もありますので、ハイキングやサイクリングなどアクティビティの幅も広がります。

都会では得られない刺激

鎌倉には、仕事だけでなくプライベートな自分の時間も大切にしたいという人が多く集まっています。かつて、鎌倉には川端康成や中原中也といった文豪が数多移り住み、鎌倉文士という呼び名までできました。文化人やクリエーターを惹きつける力が鎌倉にはあるのかもしれません。
今また、鎌倉にはクリエーターの人達がたくさん住んでいるといわれています。自然や街に漂う文化の香り、そしてそうしたクリエーター達との出会いは、都会で得られるものとはまた違った刺激を与えてくれるはずです。

鎌倉はこんな人におすすめ!

都心までのアクセスが便利だとはいっても、家からJR鎌倉駅までの移動時間なども考えるとやはり都心まで通勤・通学する負担は少なくありません。そのため、鎌倉暮らしをするのであれば鎌倉近くで仕事をしている人、テレワークやフリーランスなど自宅で仕事ができる人、リタイアをして仕事などに縛られていない人のほうがおすすめです。
都心で働いている、学校に通っているという人でも、「毎朝、サーフィンをしてから通勤している」「鎌倉に帰ってくるとホッと癒される。ここに暮らしているからこそ、毎日都心での仕事を頑張れている」というように、通勤に毎日往復2時間かけること以上の価値を鎌倉に暮らすことに見出しているという人は、鎌倉暮らしに向いているでしょう。

まとめ

鎌倉は、さまざまな世代が「一度は暮らしたい」と憧れる魅力のある街です。不便な点もありますが、鎌倉にしかない価値もたくさんあります。メリット・デメリットをどちらも把握した上で移住を検討してみてはいかがでしょうか。
 

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